2009年12月18日

ニホンザルの自然社会

ニホンザルの自然社会

 多数の小群が連続している地域集団では、群れの分裂、乗っ取り、あるいは消滅、という三つの社会変動は、群れサイズに関係しています。群れ外雄が、第一位の雄として群れに移籍する乗っ取りは、小サイズの群れで起きます。中サイズの群れでは、分裂や乗っ取りが起こりにくく、安定しています。群れ外雄の接近数も少なく、群れ雌との交尾も少ないです。これは、群れ雄たちの協同防衛が、中程度の群れでは有効に働いているためです。

 大きな群れでは、分裂が見られ、その前兆として下位の家系集団が群れの本体と離れて、独立して遊動する現象が見られます。分裂とは、劣位な家系集団が優位な群れ外雄を群れの第一位雄として自らの家系集団に取り込み、優位な群れとなれる稀な機会です。屋久島においては、40〜50頭の大きな群れが分裂しますと、最初に15頭前後の新群を産みだした後、引きつづき分裂し、家系集団を単位とした小群に分解してしまうことが多いです。

 新群には、もとの群れの第一位雄よりも優位な群れ外雄が加入します。そのため、新群のほうがもとの群れの高順位雄が居残る群れに比べて優位となります。分裂前には劣位であった家系集団が、優位な群れ外雄を迎え新群となり、群れ間の順位としては、逆転するのです。分裂によって生じた新群の中で最も優位な群れは、もとの群れの中核地域を継承し、最も早く安定した遊動域を確保していけます。より劣位な群れは、もとの群れが隣の群れと一部重複していた地域に、新たに遊動域を確保していかねばなりません。一方、乗っ取りは雌の家系集団にとって、より優位な雄を群れに迎え入れる機会です。雄から見ますと、分裂によって小さな群れの第一位雄となることと、小さな群れを乗っ取ることとは、繁殖可能な雌の数ではほぼ同じです。

 雌の家系集団は、自らの血縁者を増加させようとしています。個体数を増加させるためには、より優位な群れとなって、遊動域を拡大しなければなりません。そのため、現在共存している群れ雄よりも、より優位な群れ外雄を自らの群れに加えようとしますつまり、交尾期における雌の多回発情、交尾は、雄を多数引きつけ、雄を評価し、雄の入れ替わりを促進する手段といってもよいです。

 対する雄は、より高い順位を占めようとします。その手段の一つが乗っ取りであり、群れの分裂なのです。雌と雄との繁殖性行動が絡み合って、ニホンザルの社会変動は発生します。他の多くのニホンザルの生息地のように、群れの数が少なく生息環境も乱れている地域では、群れ外雄の出現様式や、群間関係が屋久島とは大きく違っており、社会の動きもまた違った様相を見せています。

 屋久島では、数多くの群れが存在しているがゆえに、社会変動の可能性が高く、それが雄の流動性をいっそう増すことで社会変動の可能性をさらに高めるという、正のフィードバックが起こっています。大きなサイズの群れはやがて分裂し、家系集団を単位とした小サイズの群れを産みだし、そのうちいくつかは個体数を増加させ、さらに分裂していきます。しかし、いくつかは消滅します。それが、ニホンザルの自然社会です。

週刊朝日百科 動物たちの地球より
posted by k at 17:33| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ニホンザルの群れ間の優劣と遊動域

ニホンザルの群れ間の優劣と遊動域

 群れ間の優劣関係は、群れの遊動域の拡大縮小に関係しています。
 優劣を決めるのに重要な役目を果たすのが群れの第一位雄です。

 より優位な群れは、隣接する劣位な群れの遊動域を圧迫して、遊動域を拡大してゆきます。群れの遊動域の拡大縮小は、食物資源の増減を通して、群れの個体数の増減をもたらします。照葉樹林に群れが連続して分布する屋久島では、群れの個体数と群れの遊動域の広さとには直線的比例関係が見られます。

 ある時期の多くの群れにおいて、大きな群れはより大きな遊動域という関係が見られるだけではなく、一つの群れの長期的な動きも、この直線に沿っています。群れが、より優位な近隣の群れの圧力によって遊動域を狭めますと、数年を経ずして群れの個体数は減少します。一方、群れが遊動域を広げますと、群れの個体数は徐々に増加します。

 ところで、群れは遊動域の中から、数少ない特定の樹木を選んで採食します。その中でも、何度も訪れて採食する重複利用の採食パッチは、数こそ少ないですが、採食時間の多くはそこで費やされます。つまり、重複利用の樹は、群れの財産であり、遊動域の縮小は、重複利用樹を失うことになります。

 その結果、群れ内での食物をめぐる個体間の競争が強まり、出産率が低くなったり、個体の死をもたらしたりします。極端な場合、近隣の群れから圧迫を受け、独自の遊動域をもたなくなり、最終的には群れが消滅してしまうことさえあります。

 雌から見ますと、子どもを出産し、繁殖年齢まで育て上げる器となる遊動域の質と広さおよび安定性は、食物資源の質や量に反映し、妊娠や子育ての成否に直ちに影響します。優位な群れとして、遊動域を広げられるほうがもちろんよいです。したがって、雌たちは群れの遊動域の防衛者として、より優位な雄たちを厳密に選ぶことになります。

posted by k at 17:30| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ニホンザルの交尾と妊娠は別

ニホンザルの交尾と妊娠は別

 雌にとっては、妊娠することと、
 交尾することとは
 必ずしも同じではありません。

 9月から翌年1月までの長い交尾期に雌は何度も発情を繰り返し、群れの雄とも群れ外の雄とも交尾を行います。たとえ妊娠しても、さらに発情します。

 交尾期初期の雌の発情は、一斉に始まるのではなく、一匹また一匹と個体ごとにずれています。また、妊娠するのは、その交尾期の最初の発情、排卵時であることがほとんどです。そのため、最も妊娠しやすいこの発情雌をめぐって、群れ内雄間には厳しい競争がおこります。群れ雄の間では、順位が高いほど雌を妊娠させ、自らの子を残す機会が多いと考えられます。

 交尾期初期には群れ外雄はほとんど現れず、雌は群れ雄と交尾します。しかし、交尾期中期になりますと、急にたくさんの群れ外雄が現れ、群れ雄も交えて交尾の最盛期を迎えます。雄たちは、交尾期の初期には、群れ内に留まって繁殖をめぐる競争に参加し、中期になると群れを出て、群れ外雄となることもあります。

 雄にとって、高い繁殖成功を手にいれるには、群れに留まって第一位となるのが一つの方法です。一方、交尾期に群れを出て群れ外雄となり、どこかの群れを乗っ取ったり、分裂させて第一位の雄となる方法もあります。

 群れを出た雄たちは、自らの子孫を残す可能性の最も高い機会を求めめます。そのために、数多くの群れを見てまわり、乗っ取りと分裂の可能性の有無を調べるのです。しかし、リスクは大きいです。

 交尾期に群れの第一位雄と群れ外雄は、「ガガガ」と鳴きながら激しく樹をゆするディスプレイを頻繁に行い合います。戦いも起こり、耳や唇が裂け、手足に傷を負い、死ぬことさえあります。群れ外雄は単独で群れに接近してきますが、群れ内雄は協同して対抗します。

posted by k at 17:27| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ニホンザルの屋久島における群れと社会変動

屋久島における群れと社会変動

 第二次世界大戦後、今西錦司氏らによって、幸島と高崎山で餌づけによる野外研究が開始され、100頭以上もの大きな孤立した餌づけ群が、見慣れた姿となりました。しかし、広大な自然林に数十頭程度の小さな群れが連続分布しているのが、ニホンザルの進化してきた自然社会です。それをいまなお垣間見ることができる場所が、屋久島です。

 屋久島の照葉樹林では、群れの平均的な頭数は30頭たらずですが、群れのサイズは10頭前後から60頭くらいまで大小さまざまです。群れの並び方を見てみますと、大きな群れの周りには、小さな群れがいくつかあるというのが普通です。

 群れが分裂するのはよく知られた事実ですが、屋久島では群れの乗っ取りや消滅も観察されています。分裂、乗っ取り、消滅の混在する個体群の歴史の集積が、そのような分布パターンをもたらしているのです。この地域で見られる群れのダイナミズムを、模式的に論じることにします。

 ニホンザルの一年は、秋から冬の交尾期と、春から初夏の出産期にはっきり分かれています。群れには複数の雄と複数の雌が、交尾の見られない時期にも共存しています。群れに生まれた雄は性成熟に達するころ群れを出て行きますが、雌は生まれた群れに居残ります。したがって、群れは血縁関係のない雄と血縁で結ばれた雌の家系集団とで構成されます。

 群れが多数連続分布している屋久島では、群れ雄の数は、雌の数より少し少ないです。つまり、単独で生きる雄は少なく、非交尾期にはほとんどの雄は、群れ内雄として生活していることになります。交尾期になりますと、数少ない単独の雄や群れを離れた雄が多数群れに接近し、交尾したり社会変動の主役となったりします。

週刊朝日百科 動物たちの地球より
posted by k at 17:24| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ニホンザル

 本州北部下北半島のニホンザルは、ヒトを除いた全世界の霊長類の中で、最も高緯度に生息していることで有名である(北限のサル)。サルが雪景色の中に生息しているのは珍しい光景であるため、ニホンザルのことを英語でSnow Monkeyと呼ぶこともあります。下北半島に生息するニホンザルは、環境省レッドリストの初版(1991年)及び改訂版(2000年)では「絶滅のおそれのある地域個体群」で掲載されていましたが、2007年8月3日に公表された最新版では掲載されていません。

 なお、初版(1991年)及び改訂版(2000年)で、同じく「絶滅のおそれのある地域個体群」に評価されていた東北地方のホンドザル個体群は、金華山のホンドザル及び北奥羽・北上山系のホンドザルの2つの個体群に評価単位を見直された上で掲載されています。

 ニホンザルの生息地6か所が日本の天然記念物に指定されています。宮崎県串間市の幸島、大分県大分市の高崎山(高崎山自然動物園)、大阪府箕面市の箕面山(箕面山自然動物園)、千葉県富津市の高宕山(高宕山自然動物園)、岡山県高梁市の臥牛山(臥牛山自然動物園)、青森県の下北半島(北限のサル)です。

 日本のヒト社会では従来からニホンザルに対する感情は概ね良好でしたが、近年では、人里に出没し、日本の一定の農民や行政では、畑を荒らしたり、人を襲う動物として規定し、「対策」をしている例もあります。日光市では「サル餌付け禁止条例」を施行しました。

タグ:ニホンザル
posted by k at 17:16| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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